今回は一般人の創作したすべらない話を5つ、まとめてお送りします!
ラッキー
ラーメンが着丼するのと同じタイミングで、カウンター脇にあるテレビで流れるニュースから、僕たちは著名人が亡くなったことを知った。
こんな風に取り上げられずに俺らは死んでいくんだろうと彼はつぶやいた。
彼はセンシティブなようだった。1000シティブくらい。
「なんでそんなにセンシティブなんだい?」
変人には2種類あるんだよね。敬遠したいタイプと、怖いものみたさでしばらく付き合ってみたいタイプ。
「なにそれ」
気になるあの子が言った言葉。俺はどっち?って聞いたの。そしたら前者って言われた。
「ラッキーじゃないか。敬遠されたら一塁にいける」
一塁に行った後はどうすれば良いんだ。
「盗塁でもして二塁を目指せば良いだろ」
縄文
縄文時代は争いがなかったのに。令和はこれだから。
渋谷駅の田園都市線と東横線を結ぶ改札通路、そこで白髪が似合う老人と金髪の派手な若者がぶつかって、言い争いをしている。
「どこ見てるんだよ」
「おまえこそ、どこ見てるんだ。この若造が。俺が今日どんな気持ちで歩いてるのか知ってんのか」
「何言ってんだよ。この老いぼれが。ふざけるなよ」
大体こういった内容だった。10メートルは離れた脇を歩いている私たちが聴き取れたのだから、お二方ともかなりの大声だったのだろう。
それを見て、冒頭の台詞を友人が呟いた。
それに対して、「争いはなくても、ああいう些細な言い争いはあったんじゃないか?」と私は言う。
「なかった」友人は断言した。まるで縄文時代を生きていたかのように。
「あと、勝手に他人の言い争いを些細だと決め付けるのは良くない」友人は続けた。
「でも、単に肩がぶつかっていただけじゃないか」
「あの老人はこれから孫に会いに行くんだ。幼い頃から幼い孫を肩車をすることが夢だった。何日間も肩車を成功させるために肩の調子を整えた。マッサージ店や整体にも通ったりしてね。そして今日、ようやく。ようやくその時が来たんだ。そうしたら肩に体を当てられた。さっきの衝撃で今までの努力は水の泡さ。そりゃ怒っても無理はない」
「何言ってるんだ?」
「仮に、仮に俺が語った通りだとしたらあんな風に叫ぶのも無理はないだろ」
「まさか」
「大事なのは想像力なんだ」
「まあ、言わんとしてることはわからないわけではない。こじつけで心が落ち着くなら、それに越したことはない」
ふと、さっき来た道を振り返る。
若者が、老人を肩車しているのが目に入った。
世の中は、わからないことばかりだ。
「あれはじゃあ、どうやったら説明がつくんだよ」私は友人に嘆く。
「あれはな」友人はまたすらすらと想像力を広げていく。
その突飛な想像力を聴きながら、折り畳み傘を畳む。
交換
最近、フリスビーに少しはまっている。
相手はシェアハウスの哲学科専攻のルームメイトだ。
彼曰く、フリスビーは贈与。
世の中には贈与と交換の二種類があって、無償の贈与は交換よりも貴重で、社会に出ると大抵の人は大きな交換の歯車として動く。
フリスビーを相手に投げるとき、何かと交換はしない。だから、贈与らしいのだ。
例えば、愛は贈与、恋やビジネスは交換。
だから、フリスビーイコール愛らしい。わかるようでわからないような、けれどわかるような気がする。
結局フリスビーだって投げたら相手から返ってくるから、交換な気もする。
彼はフリスビーの最中もさまざまな思想を語ってくれる。
最近は推しの話が多くて、哲学が推しに押されて沈んでいるけれど。
軌道は曲がるけれど、彼の推しへの思いはいつも真っ直ぐ。
そんな彼はある日、贈与でケーキをあげるよ、フルーツ買ってきたから食おうぜ
といってきた。
「お、格好良いな」「さすが、贈与を自ら体現する男だ」などと思っていたのだが、
しばらくすると「贈与ポイントが溜まってきたからなんかくれ」「いつも贈与しているからそろそろ奢ってくれても良いんじゃない」と言ってくる。
贈与って、ポイント制なのか。
それは贈与ではなくて交換ではないのか。
時間
すごくびっくりしたことがあります。
6歳差の妹が知らない間に女子高生になっていました。
私は腰を抜かし、目を丸くし、お腹を叩きました。
あんなに小さくて、いい子いい子して、髪の毛もまだ薄くて、目が丸々で、「ごー」が口癖だから
100÷20は?とか
x^3-15x^2+75x-125=0の解は?
とか投げかけて
「ごー」
「わー天才、〇〇ちゃん、すごいね!」みたいなことをしていたというのに。
私の中で妹=小学生くらいでずっと止まっています。
恐ろしい。
時間。
光陰矢の如しは大袈裟ではない。
テストが大変だそうで、落ち着いたら電話でもしようと思います。
もっと妹の近況を把握しておくべきだと反省しました。
兄弟の誕生日をこの前知った、みたいな友人もいて、その距離感の違いもまた不思議です。
グレー
腹黒い話、聞いてくれる?
「ああ、もちろん」
ほんとさあ、信じられないことがあって。
King Gnuが好きな白石さんっているじゃん。
前にお部屋にお邪魔したことがあって。
ヨーグルトをつくるのが好きって言ってたから手土産に牛乳を買って持って行ったんだ。
その時は「ありがとう、これでヨーグルトを培養できるわ」って喜んでいたんだ。
だから私はその牛乳でヨーグルトができるんだろうなと思ってたの。
でもね、彼女、あの牛乳でチーズを作ったんだって!共通の知人のミセスベンホワイトから聞いたんだけど。
信じられる?それを聞いて私頭が真っ白になっちゃって。
どう思う?ねえ、聞いてるの?すごく腹黒いでしょ。
「中和されて、グレーってとこかな」