【寝る前に笑える短い面白い話、ネタを集めました#2】「山頂と思い出」とその他5選

小話
クマ太郎
クマサーン

今回は面白い話を5つ、まとめてお送りします。カフェでの勉強や作業の合間の頭休めにどうぞ!

ぬいぐるみ

ぬいぐるみが好きです。

初期費用しかかからないからです。

サブスクが増えたこのご時世、珍しい代物です。

それでいて、いつだってこちらを円な瞳で見つめてきます。

悲しんでいる時は悲しみを和らげる笑顔で、うれしい時はうれしさを倍増にする笑顔です。

そのぬいぐるみは、江戸時代につくられたんですよと店員さんに説明を受けます。

じゃあ、参勤交代も見てきたんですね。

そうかもしれません。店員さんは苦笑いします。

家に帰って物置を整理していると、アンパンマンのぬいぐるみが出てきました。ほこりをかぶっていました。

小学生くらいのころに「アンパンマンってカッコ悪いね、汚れてるし」みたいなことを誰かが言った時に、アンパンマンがそれを聞いて「そうだね」って返したのを見たとき、なぜかボロボロ泣いたを思い出しました。

アンパンマンを見つめているうちにあんぱんが食べたくなってきました。

近所のパン屋に行くと、いつも大量にあるはずのアンパンマンパンが売り切れています。中にあんが入っている、アンパンマンの形をしたパンです。呆然としている私に、店員さんは言いました。

「すみません、さっきアンパンマン好きのお兄さんが全部買って行っちゃいました。」

山頂と思い出

大晦日の深夜、山頂にいた。

日の出を待つ時間が長く、寒かった。

温度計はマイナス10度を記録していた。

こんなのきいてないよ、きいてないって。と誰かに言いたくなるが、冬山の寒さを甘くみていた自分が悪い。

それから日の出までの数時間は長かった。太陽、なにをもたもたしてるんだよ、とせかすようにひとりで呟いてみたり、あたたかいと言い続ければ脳が洗脳されて暖かくなるのではないかと思い「あったかい、なんてあったかいんだろう」「あったか過ぎて困っちゃうな」などと言っていたのだが、流石に10分も呟き続けると飽きてくる。

こうなると、おとなしく黙って待つしかない。

見える夜景は綺麗だった。

ずっと奥の方に、ちょっととんがったものが見える。あれはきっとスカイツリーだろう。主人公感がすごい。

目を凝らせば東京タワーも見えた。

脇役に甘んじるまい、と主張しているのか、点滅している。

黙っていると、いろいろなことを思い出す。

そういえばこういう時間が最近なかったなと思った。

余白がない日常を送っていたことを、スマホの充電が切れて外界から閉ざされ、食べ物もない山頂という環境が用意されてようやく、気がついた。

もう1年が終わろうとしている。

寒さが増す。

そうだ、カイロ。

バッグの中に確かあったはず。

チャックを開けようとするが、手が悴み過ぎて、全くもって開く気配がない。

「開かない」

——————————————————

「あれ、おかしいな、開かない。開くはずなのに」

妹と家のドアの前で立ち尽くしていた。

家の前で私たちは携帯も持っていないく、ただ呆然とするしかなかった。

確かに中に人はいるはずだった。通りから見たら灯りがついていた。

妹と私は途方に暮れた。そして、そこでじっとしていても寒さが増すだけだから、と近くの川沿いを散歩することにした。数時間歩いて、戻ってきてしばらくしたら開くんじゃないか、と思っていた。

今はただ鍵の調子が悪いだけだ、と。

——————————————————

数時間後、再び家の前にいる。

開けようとするが、開かない。

コンコンと、叩く。

「おーい」「いるなら開けてよ」

反応がない。

「お腹すいた」妹が言った。

お金持ってないよ。

私と妹はそこから歩いて1時間半の祖父母の家に行くことにした。

——————————————————

祖母は笑顔で迎えた。

事情を話して、連絡をとりたいと言っても

「大丈夫よ、なるようになるから」

としか言わなかった。

妹はお腹が空いていたから、牛のしぐれ煮を作ってくれた。

——————————————————

振り返れば、母が耳鳴りがすると言っていた時から何かが動き始めていたのだ。

様々な病院に行っていたらしいが一向に回復の兆しが見えなかった。

そんな矢先に、どこかのサイトで「耳鳴りを治せる達人」を知り、会うことになったらしい。

耳鳴りを治せる達人。

言葉の節々から響く怪しさを感知する鋭気は、私たちにはなかった。

耳鳴りを直してもらえる人がいるとウキウキしていた。

その人は耳鳴りを治せず、かわりに家庭に侵食していった。

家族という響きから来る温暖や充実は、虚構や空洞になった。

嘘って思えばいいんじゃない?私もそう思ってるよ。

ある日、祖母が言ってきた。

どこから? いったいどこから。

——————————————————

「ねえ、どこから?」

「どこから太陽って出てくるの?」

「知らない。そんなの自分で考えてよ」

近くにいる人々の声がきこえる。

夜景は徐々に太陽の光を取り入れ、オレンジに染められていく。

「太陽、すごいね。あんなに暗かった夜空をたった1人で全部明るくしちゃうんだね。」

太陽が出てきた。

一気に空の色が変わった。

太陽の頑張りに比べたら、過去を笑うことなんて簡単すぎる。

誕生日

happybirthday

「お誕じょぶの?お誕じょばないの?はっきりしなさい!」

「ごめんなさい、お母さん」

「謝らなくていいわ。で、お誕じょぶの?」

「お誕じょびたいけど…いいのかな」

「いいわ、では…ハッピーバースデートゥーユー、ハッピバースデーディア息子!」

「ありがとう、お誕じょべたよ、僕!」

「よかったわね、ついにお誕じょべたのね。本当によかった。」

カレーパンが輝いています。

宇宙にも届きそうなくらいに光っています。

その日は雨でしたが、そのカレーパンがあったおかげで部屋の中は晴れました。

目が痛くなるほどに、光っています。

とはいえお腹が空いていたので、カレーパンを食べました。

そうしたら懸念していたことが起こってしまいました。

自分の体が光始めたのです。

その日は誰とも会う予定はなく、このご時世ということもありオンラインのミーティングでした。

画面上で自分自身が光って表示されていても「ちょっと部屋の照明の調子が悪くて」等適当に誤魔化しました。

マヨネーズ男

マヨネーズをかけるために生まれてきたんだ。

とばかりに彼は私の作ったこだわりのスパイスカレーに絞り出します。

あっという間にカレーライスマヨネーズ味が完成します。量からしたらマヨネーズの方が多いかもしれないのでマヨネーズライスカレー味です。

こだわりのスパイスの奥深い味わいはマヨネーズによって上書きされます。

こだわりが台無しになる瞬間。

あと、裸足で外を歩きます。そっちの方が強そうだろ、と言います。

彼は周りの目は気にしません。彼を気にするのは周りの方だからです。

あと、いきなり愛について語り出します。詳しく述べるほどでもないのですが、そういう話が彼は好きでした。

端正な顔つきからは想像できない変人。

そんな彼と、音信不通になってしまいました。

そして今月のこと。

ここは都内の有名なチェーンのカフェ。

目の前の少年がバックから徐にマヨネーズを取り出し、ホイップの上からそれを絞り出していました。

もしかすると幼くなった彼かもしれない、と思います。

ここはコナンの世界じゃないんだぞ、と我に帰り、私は帰宅しました。

 

藤原千裕

幼い頃に経験した両親の喧嘩から現実逃避のため小説に没頭する。その後祖父母宅での居候を通じて、諦観と創作意欲が醸成され、以降小説を執筆。
好きな作家はさくらももこ、伊坂幸太郎、一條次郎。
趣味はサッカー(ヘディング以外)、M-1に出ること、小説を書くこと。

藤原千裕をフォローする
小話
シェアする